日本の伝統技術「刺し子」とは|現代のブランドへの影響
こんにちは。ブランド古着のKLDです。
日本の伝統的な刺繍の技法、「刺し子」をご存知でしょうか?
独特な凸凹感を持ちながら美しく、丈夫な生地を作るこの刺繍は、江戸時代から発展し、現代のブランドにも取り入れられて注目されています。
今回は、
- 刺し子とは?
- 刺し子の歴史
- 日本三大刺し子について
- 刺し子から派生した技法
- 「刺し子」と「刺し子織り」の違い
- 刺し子と関係の深いブランド
という形で、「刺し子」とはどんな技法なのか?現代ではどのように愛されているのか?…などを解説します。
日本の伝統技術は、形を変えながらさまざまな人に愛されています。
その技法がどこからやってきたのか、また現代でどう愛されているのか、未来にどう繋がっていくのか…等に思いを馳せると、一つ一つのアイテムにも愛着が湧いてくるかと思います。
今回は、そんな形で「刺し子」に迫っていきたいと思います。
目次
刺し子って何?
刺し子は、布の保温性や強度を高めるために、東北の女性たちが生み出した日本の伝統的な手仕事です。
「刺す」・「縫う」・「刺繍」の要素が含まれており、刺し子を的確に定義するのは難しいといわれています。
数々の多彩な伝統模様には、昔の女性たちの知恵や工夫、願いなどが込められています。
見た目は、手仕事ならではの素朴でやさしい、やわらかな雰囲気が印象的。
地域によって様々な刺し子が派生し、現在でもその土地独自の刺し子が残っているそう。
やがて縫製技術が発達し、手間のかかる刺し子は時代の変化とともに衰退していきました。
しかし、その昔ながらの手仕事に感銘を受けた人々によって、刺し子文化の素晴らしさは現在でも発信され、その魅力を見直されています。
近年は、情報化や機械化が進み、ファッションブランドによる刺し子デザインや、刺し子に似せた「刺し子織り」など、新しい刺し子の在り方が実現しています。
また、刺し子は手芸としても人気があり、ハンドメイドの商品を制作、販売する方や手芸キットなどもあり、奥深くも手軽に始められる趣味の一つとしても愛されています。
刺し子の歴史
江戸時代の火事袢纏。刺子で補強されています 引用 hirotatsumugi.jp
刺し子の歴史の始まりは、今から約500年前の江戸時代中期にさかのぼります。
当時、東北地方の寒い地域では綿の栽培が適さなかったため、手軽に綿布を手に入れることができなかったそうです。
そのため、貴重な綿を最後まで大切に使うようにと、衣服の補修や補強、保温などを目的として刺し子が生まれました。
裂けた布を補修したり、部分的に繕って補強したり、特に寒い東北地方の冬を乗り越えるために布を重ねて綴ったり、人々の知恵から刺し子は発展していきました。
また、1724年の「農家倹約分限令」によって刺し子はさらに発達していきます。
この制度により、農民は仕事着や普段着において綿布の使用が禁止され、藍染めの麻布の着衣を強いられました。
特に寒さが厳しい東北地方では、通気性のいい麻布で寒さを防ぐことができなかったため、刺し子から派生した「こぎん刺し」という技法も編み出されました。
そして、文明開化により貿易が始まったため、布類の入手が容易になったと同時に量産品が生産・流通するようになり、刺し子は衰退していきます。
そんな時、当時、民芸運動に力を入れていた美術評論家の柳宗悦が、刺し子に着目したことで刺し子の美しさが再認識されました。
この出来事は、現在でも刺し子が伝統的な手仕事として残るきっかけとなったのです。
日本三大刺し子について
刺し子といえば「津軽こぎん刺し」「南部菱刺し」「庄内刺し子」が有名で、これらを日本三大刺し子と呼びます。
どれも東北地方の寒さを凌ぐための知恵として発達した刺し子ですが、技法や見た目が異なります。
ここからは、そんな日本三大刺し子について説明します。
津軽こぎん刺し
“東こぎん” 引用 tsugaru-kogin.jp
津軽こぎん刺しは、青森県津軽地方で生まれた刺し子です。
藍染めした麻布に白い木綿糸で、一・三・五・七…と縦糸の奇数目を数えて刺し進めていくのが特徴。
「モドコ」というベースとなる幾何学模様には、一つ一つかわいらしい名前がつけられています。
初めは糸も麻を使用していましたが、木綿糸の普及により多様性のある模様が発展したのだとか。
また、津軽こぎん刺しは運針のように刺し進めていくので、布が縮まぬよう「糸こき」という糸をしごく作業が必要です。
もともとは津軽の寒さを凌ぐために編み出された技法ですが、徐々に女性たちのおしゃれ心に火をつけ、慎ましい生活の中でも表現することを楽しんでいたそうです。
こぎん刺しについてはこちらからもどうぞ
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南部菱刺し
南部菱刺しの帯 引用 hirotatsumugi.jp
南部菱刺しは、青森県南部地方で生まれた刺し子です。
麻布一枚では寒さを防げず、裏地に綿布を重ねて麻糸で刺したのが菱刺しの始まりだといわれています。
菱刺しは、二・四・六・八…と偶数目を数えて刺し進めていくのが特徴で、津軽こぎん刺しとの大きな違いです。
そのため、同じ菱型模様でも津軽こぎん刺しは縦長、菱刺しは横長となります。
また、菱刺しは運針のように刺すのではなく、ひと針ひと針、布に針を刺し通します。
この刺し方は布が縮みにくいため、糸こきの作業が必要がありません。
ただ、布が詰まらないような刺し方とはいえ、実際に布の面積を縮めないよう、刺している最中は注意を払う必要があり、難しい技法だといわれています。
どちらも見た目は非常に似ていますが、ゆっくりとひと針づつ刺し進めていく菱刺しは、やわらかい印象に仕上がるため、ほっこりした気持ちにさせてくれます。
庄内刺し子
庄内刺し子 引用 hirotatsumugi.jp
庄内刺し子は、山形県庄内地方で生まれた刺し子です。
針目が細かく繊細緻密なデザインが特徴で、日本三大刺し子の中で最も難易度が高い刺し子とされています。
庄内刺し子は、津軽こぎん刺しや南部菱刺しの、奇数目や偶数目のような制限はありませんが、タテ・ヨコ・ナナメと刺し進めて模様を作るという基本があります。
その基本を守りながら女性たちは、豊作を祈る「米刺し」や魔除けの「麻の葉刺し」、商売繁盛を願う「そろばん刺し」などの、祈りや願いを込めた模様を生み出しました。
この独特の模様は、庄内刺し子の大きな特徴であり、津軽こぎん刺しと南部菱刺しとの大きな違いでもあります。
日本三大刺し子は、どれも東北の寒さを凌ぐことが根元にありますが「ものを大切に長く使おう」という意識も含まれています。
刺し子から派生した技法
昔の女性たちは刺し子を施す中で、より暮らしやすく、より布を長持ちさせるために様々な技法を生み出しました。
ここからは、刺し子から派生した技法を、一部ご紹介します。
くぐり刺し
くぐり刺しとは、その名の通り、糸をくぐらせる技法です。
まずベースとなる刺し子を完成させ、その刺し子部分に針穴を使って糸をくぐらせ、柄を作り出します。
くぐり刺しは“刺す”のではなく“くぐらせる”ので、くぐる糸が裏側にひびかないのが特徴。
刺し子の基本である「一目刺し」にくぐり刺しを施すという、2つの技法で完成するため、比較的簡単だといわれています。
また、くぐる糸の色を変えて、配色を考えるのも楽しみの一つです。
そして、簡単でシンプルなのに見映えがいいのが魅力。
ひたすらくぐることで完成するので、刺し子初心者でも刺しやすい技法です。
二重刺し
二重刺しは、擦り切れた布や衣服を補修するために生み出された技法で、「二重刺しこぎん」とも呼ばれています。
まだまだ布が貴重だった時代、刺し子やこぎん刺しも非常に貴重な装飾として、大切に扱われていました。
そのため、刺し子が施された布が一度擦り切れたからといって、簡単に捨てられるものではありませんでした。
擦れた部分を上から刺し重ね、「布を長く大切に使おう」といった思いから生まれた技法なのです。
刺し子より布いっぱいに糸を刺すこぎん刺しの場合でも、上から模様を刺し埋めます。
何度も刺し埋めを繰り返し、最終的には地が見えなくなることもあったそう。
それほど、昔の人々は布と刺し子文化を大切にしていたのかが伺えます。
模様刺し
模様刺しは、面積いっぱいに模様を刺す技法です。
規則性のある刺し子とは異なり、一つのイラスト絵のような仕上がりになるのが特徴。
模様刺しは、イラストや古くから伝わる縁起の良い柄がモチーフです。
イラストベースのものは曲線が多いのが印象的。
図案の輪郭線を並縫いで刺していくだけなので、分かりやすく簡単にできるのも特徴です。
イラストの場合、オリジナルで図案を考えることもできるため、独自性がでるのが魅力。
布の面積を広く使う技法なので、インパクトのある見た目に仕上がります。
襤褸(ぼろ)刺し子
引用 heddels.com
襤褸(ぼろ)刺し子とは、布を重ね、つぎはぎ、刺し子を施す技法です。
使い古して裂けた布や、着古して破れた衣服などを重ね合わせたり、つぎはぎしたりして、使えるように蘇らせるのが襤褸刺し子です。
この襤褸刺し子も、布が貴重な時代であった青森県の人々の知恵から生まれました。
しかし、当時、襤褸刺し子はその見た目から、“青森の貧しさの象徴”といわれていたそう。
特別な技術は必要ないため、こぎん刺しのような繊細な技法を身につけなくても、専用の針・糸・布がなくても、普通の針・糸、そして古布・古着さえあれば襤褸刺し子ができます。
「刺し子」と「刺し子織り」の違い
「太刺子」の生地 引用 wasuian.com
時間をかけ丁寧に針と糸で織りなす刺し子は、日本の伝統手芸として受け継がれてきました。
しかし、時代の変化とともに刺し子をする人が減少したことと、機械化の進歩によって「刺し子織り」が登場しました。
刺し子織りとは、その名の通り、刺し子の見た目を再現した織物のことです。
刺し子は人の手で刺し進めていきますが、刺し子織りは、平織の地にタテ糸とヨコ糸を浮かせて模様を織り出します。
また、本来の刺し子の目的は補修や補強、防寒などといった暮らしの中に寄り添ったものですが、刺し子織りは、デザイン性に特化した製品としての立ち位置が印象的です。
刺し子織りは、刺し子ならではの手縫いのぬくもりやあたたかさには適わないかもしれませんが、織物特有の美しさを感じることができます。
どちらも見た目は似ていますが、時代背景やルーツ、風合いなどは異なっているため、刺し子織りを「刺し子」というカテゴリーに一括りにするのは難しいでしょう。
ただ、刺し子織りは刺し子離れした現代でも、刺し子をより身近に感じられ、刺し子の魅力に気付くきっかけとなる布だといえます。
刺し子と関係の深いブランド
ここからは、刺し子と関係の深いブランドをいくつか紹介します。
どのブランドも刺し子を単なるモチーフとして捉えているのではなく、時代背景や伝統文化を尊重してデザインに反映しています。
Porter Classic
Porter Classic(ポータークラシック)では、生地の開発、加工、強度の研究に5年も費やしたという刺し子シリーズ「PC SASHIKO」を展開しています。
「PC SASHIKO FRENCH JACKET」 引用 porterclassic.com
ワークテイストでありながらも、PC SASHIKOのお針子さんたちの技術が反映されたアイテムは、重厚的かつ繊細な存在感を放ちます。
また、凹凸感のある立体的な生地を楽しめるのが「ニューこぎん」シリーズ。
「NEW KOGIN SHIRT JACKET」 引用 phaeton-co.com
ポータークラシックがこぎん刺しを学び、咀嚼・再構築したシリーズで、“伝統的なこぎん刺しを次の世代に残したい”という思いが込められています。
インディゴブルーや生地の端切れを使用する点など、刺し子文化の時代背景もリスペクトしているのがポータークラシックの魅力です。
Porter Classicについてはこちらからもどうぞ
引用porterclassic.com こんにちは。ブランド古着のKLDです。 ...
visvim
visvim(ビズビム)では、刺し子をヴィンテージ感漂うデザインに活かしています。
シャツやダウンジャケット、バンダナにシューズまで、様々なアイテムに刺し子を反映させているのが印象的です。
特に人気なのが、刺し子と相性がいい和装テイストの「sanjuroシリーズ」。
中でも、ミリタリーテイストも感じられる「kimonoダウン」や「kimonoジャケット」は、刺し子のクールな表情を楽しめます。
「SANJURO KIMONO DOWN JKT」 引用 diverse-web.com
シャツやジャケットの裾や袖などに、刺し子を部分的に取り入れているデザインは、さり気ない和のアクセントがポイントです。
刺し子を多彩な表情に変える、visvim独自の和を融合させるデザイン性は、海外からも高い評価を得ています。
visvimについてはこちらからもどうぞ
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COSMICWONDER
COSMICWONDER(コズミックワンダー)は、現代美術家である前田征紀氏によるブランド。
前田氏のアート的感性と、刺し子を融合させたアイテムを展開しています。
中でも、オーガニックコットンに刺し子織りを施したアイテムを多く展開しています。
「フラワー・オブ・ライフ」という、規則的に円の重なりが並んだ模様が特徴的です。
「Flower of life sashiko dress」 引用 archipelago-shop.com
ニュアンスカラーを基本としたアイテムは、生地と糸を同色で統一し、刺し子織りを控えめに主張しています。
一見、シンプルで無機質なデザインに見えますが、よく見て手に触れると、刺し子織りのしなやかな美しさを実感できるアイテムです。
伝統的な刺し子に敬意を示しながらも、コズミックワンダーらしいアートピースのようなデザインが魅力です。
KAPITAL
KAPITAL(キャピタル)では、ブランド独自の斬新な民族テイストに刺し子を織り交ぜています。
刺し子はフリースやコーデュロイ、セーターなど、様々なアイテムに反映。
手仕事の刺し子はもちろんのこと、刺し子柄を用いることもして、刺し子を多様に活かしているのが印象的です。
奇抜でありながらも刺し子のあたたかみを主張してくれる、何ともいえないKAPITALにしか生み出せないデザインが魅力。
また、刺し子を施したジーンズも国内外から厚い支持を集めています。
元々45rpmやヒステリックグラマーのOEMをしていただけあって、刺し子を融合させたジーンズは別格です。
「CENTURY DENIM」 引用 kapital.jp
生地と刺し子の凹凸の高低差によって摩擦が起こるため、独自の経年変化を楽しめるとのこと。
KAPITALの刺し子をを用いたデザインは、ブランドカラーに馴染ませた圧倒的な独創性が見られます。
ここまで読んでくださった方へ
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
日本を代表する刺繍の技法である「刺し子」。
伝統的な技法としてはもちろん、様々に形を変えながら、現代のブランドのアイテムとしても愛されているのがわかりました。
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