グランジってどんなファッション?|文化と歴史
こんにちは。ブランド古着のKLDです。
「フェアリーグランジ」などの新しい潮流を経て、再び注目されているのが「グランジ」というファッションジャンル。
グランジとは、1990年代にアメリカ・シアトルを中心に広まったファッションまたは音楽のスタイルのことを指します。
ファッションでいえば、『grungy(汚れた)』という形容詞に由来するとおり、「服なんかに構わない」というマインドをそのまま体現した、ボロボロで汚れたファッションスタイルです。
Nirvanaのカート・コバーンのスタイルがその代表的なもので、主に1980年代の華美な装飾で格好つけたバンドシーンへのアンチテーゼとして、粗野で(時には部屋着くらい)シンプルなスタイルでメディアやライブに出演したことでグランジスタイルが広まりました。
今回は、そんなグランジファッションについて、その歴史も併せてお話していきたいと思います。
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目次
グランジとは?
NIRVANA/カート・コバーン 引用pinterest
グランジは1980年代後半から1990年代初頭にかけて登場した音楽およびファッションスタイルで、アメリカ・シアトル発祥のオルタナティブロックの一派として知られています。
このスタイルは、反商業主義的な姿勢や、内省的な歌詞などが特徴です。
音楽面では、NirvanaやPearl Jam、Soundgardenなどが代表的なバンドとして挙げられます。
1980年代から1990年代初頭までロックシーンにおいて人気を誇っていた、『グラムロック』や『ヘアメタル』などの煌びやかなルックスのバンドへの反発心が強く、着の身着のまま、服装なんでどうでも良いと言わんばかりのルックスで活動していたのが大きな特徴の一つです。
グラムメタル/ヘアメタルのバンドとして知られる「モトリー・クルー」 引用mondosonoro
グランジの音楽とファッションは密接に関連しており、若者の反骨精神と不満を象徴するものとなりました。
グランジ音楽の背景と特徴
グランジの先駆けとも言われるバンド「Mudhoney」 引用YouTube
グランジ音楽は、ハードロックやパンクロックなどを源流とし、激しいギターリフや重厚なリズムが特徴です。
シアトルのSub Popレコードなどの独立系レーベルがグランジシーンを支え、当時、シアトルを中心に活動していたバンドたちの拠点ともなりました。
Nirvana、Soundgarden、Pearl Jam、Mudhoneyなど、これらのバンドは共にグランジの音楽シーンを築き上げ、音楽業界に新しい波をもたらしました。
1989年にSoundgardenがメジャーデビューを果たしたことを皮切りに、グランジシーンは徐々に広がりを見せ、1991年にはNirvanaの「Smells Like Teen Spirit」がリリースされ、一気に世界的な注目を集めました。
この曲の成功によって、グランジは単なるシアトルの地域的なムーブメントから、グローバルな現象へと変わっていきました。
その直後にリリースされたNirvanaのアルバム、『Nevermind』は、大きな商業的成功を収め、グランジの代名詞的存在となったカート・コバーンは、一気に若者のカリスマ的存在へと浮上しました。
グランジシーンを代表するバンドの歌詞の多くは、消費社会への嫌悪感や自己矛盾、孤独感といったテーマが中心で、オルタナティブな価値観を持つリスナーたちに強い共感を呼びました。
グランジシーンは、メディアの過剰な注目によって商業化され、1990年代半ばには衰退の兆しを見せ始めましたが、その後も多くのアーティストやバンドに影響を与え続けています。
カート・コバーンの苦悩とグランジシーンの矛盾
カート・コバーンは、Nirvanaの成功によって一躍世界的なスターとなりましたが、その成功は彼にとって必ずしも喜ばしいものではありませんでした。
彼は商業的な成功と、自身の反商業主義的な価値観の間で大きな矛盾に苦しみました。
彼の音楽は、本来、個人的な苦悩や社会に対する反発を表現するものであり、彼はそのメッセージが大衆に消費されていくことに対する強い嫌悪感を抱いていました。
カート・コバーンは、メディアによる過剰な注目と音楽業界からのプレッシャーに苛まれ、次第に精神的な負担を抱えるようになります。
彼はドラッグ依存に陥り、精神的な苦痛から逃れようとしましたが、それは彼の状況をさらに悪化させる結果となりました。
1994年、カートは自宅で自ら命を絶ち、27歳という若さでその短い生涯を閉じました。
彼の死は、グランジシーンにとって象徴的な出来事であり、その後のシーンの衰退を加速させる要因となりました。
カートが自死した自宅 引用wikipedia
カートの自殺は、グランジシーンが抱えていた内在的な矛盾を浮き彫りにしました。
反体制的で消費社会に対抗するという思想が、商業的な成功とメディアによる注目によって次第に歪められていったのです。
グランジは本来、社会に対する反発や若者の内面の不安を表現するものでしたが、そのメッセージが広がるにつれて、逆に商業主義に取り込まれていくというパラドックスが生じました。
この矛盾が、グランジの精神的な核を蝕み、1990年代半ばにはシーン全体の勢いが失速する一因となったのです。
よって、『グランジファッション』というジャンルのファッションを確立し、それを様々なメゾンがコレクションとして発表、大衆がグランジファッションを消費する事には、それ自体が『グランジ』というものへの大きな矛盾を孕んでいるということは念頭に置いておいても良いかもしれません。
グランジファッションの特徴
グランジファッションは音楽シーンと共に生まれた、カジュアルかつ無造作なスタイルです。
古着やリサイクル品を中心にコーディネートし、ネルシャツ、ダメージジーンズ、コンバースのスニーカー、そしてオーバーサイズのニットなどが特徴的です。
このスタイルは「おしゃれを意識しない」ことをスタンスとし、無理のないラフさと実用性がポイント。
また、ファッションアイテムとしての古着の使用は、消費社会への反発や、シーンのDIY精神を象徴しています。
グランジを代表するカート・コバーンの例でいえば、擦り切れたネルシャツに破れたニット、パジャマをそのまま着てライブをおこなったりもしていました。(彼は自身の結婚式ですらパジャマ姿で出席していました。)
自らの結婚式にパジャマで出席するカート・コバーン 引用amass
グランジファッションと現代
1990年代以降、グランジファッションは何度かリバイバルされ、現在のストリートファッションに大きな影響を与えています。
有名なデザイナーやブランドもグランジスタイルを取り入れたコレクションを発表しており、ラグジュアリーな素材や現代的なシルエットを用いた再解釈が行われています。
たとえば、マーク・ジェイコブスが1993年にペリー・エリスで発表したコレクションは、ファッション界に大きな衝撃を与え、グランジが単なる音楽シーンのファッションを超え、ファッション業界に認められるきっかけとなりました。
また、2020年代には『フェアリーグランジ』というジャンルなども生まれ、グランジというジャンルが拡大解釈され、ファッションジャンルの一つとして浸透していることが伺えます。
2020年代、Y2Kの文脈と共に流行している「フェアリーグランジ」 引用pinterest
グランジファッションを取り入れたブランド、デザイナー
本来、着飾らないことをアイデンティティとし、古着などで全身をコーディネートするグランジファッションにおいて、様々なブランドが“グランジ風”のファッションアイテムを展開することは、大きな矛盾を孕んでいるといえます。
しかし、90年代に大きなムーブメントを起こして依頼、様々なブランドにおいてグランジを取り入れたコレクションが展開されてきました。
ここでは、グランジファッションを取り入れたコレクションを展開したブランドやデザイナーの一部をご紹介します。
マーク・ジェイコブス
PERRY ELLIS 93SSコレクションより 引用hide-m.com
マークジェイコブスがペリー・エリスというブランドに在籍していた1993年春夏シーズン、グランジをテーマにしたコレクションを発表しました。
このコレクションでは、ネルシャツやグラニードレス(おばあちゃんが着ているようなドレス)、少しダサめのプリントTシャツなど、典型的なグランジスタイルのアイテムを再解釈し、ストリートファッションの美学をラグジュアリーブランドの文脈に持ち込みました。
この伝説的なコレクションは世間的な評判も良く、マーク・ジェイコブスの名を世間に知らしめる事となりましたが、ブランドのオーナーであるペリー・エリスの思い描くブランドの姿との間にズレが生じてしまい、マーク・ジェイコブスは結果的にブランドを離れる事になります。
2018年には自身のブランドであるMarc Jacobsでこのコレクションを忠実に再現し、リバイバルとして展開しました。
エディ・スリマン
SAINT LAURENT 2013AWコレクションより 引用fashion-press
エディ・スリマンはサンローラン時代に、グランジスタイルを洗練させた「ラグジュアリーグランジ」というものを再定義しました。
とくに2013年秋冬コレクションのレディースラインは、グランジを現代に甦らせたコレクションとして知られています。
彼のデザインは、様々なブランドを通してスリムなシルエットのレザージャケットやビンテージ感のあるデニムなど、総じてロックな印象を持っているのが特徴で、『グランジ』という概念ともとても相性が良いといえます。
Number (N)ine
Number (N)ine 2003AWコレクションより 引用youtube
ナンバーナインは、1990年代後半に立ち上げられた日本のブランドで、グランジファッションから強い影響を受けたデザインを展開していました。
デザイナーの宮下貴裕は、音楽やストリートカルチャーをファッションに反映させるスタイルで知られ、特にグランジやロックからインスピレーションを受けたアイテムを多く発表。
ダメージ加工のジーンズ、チェック柄のネルシャツなど、グランジ好きであればすぐにピンとくるアイテムを多数展開。
特にダメージ加工には強いこだわりがあり、実際に散弾銃や薬品などを使い、ジーンズなどにリアルな穴を開けていたそうです。
2003年秋冬シーズンなどは誰もが知るオルタナ〜グランジの名曲に乗せて、グランジ好きが見ればピンとくるようなルックを多く展開し、伝説的なコレクションとして知られています。
ブランドは2009年に解散しましたが、ナンバーナインのコレクションはその後世界的に再評価され、中古市場などでも非常に高額で取引されるようになりました。
ここまで読んでくださった方へ
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
華美な商業主義に反旗を翻し、一時代を築いた「グランジ」という文化。
ファッションの世界で消費されることには賛否両論がありますが、一つの格好いいカルチャーとして現代も愛されていることには間違いがありません。
グランジファッションを取り入れる際には、90年代の音楽的な背景などにも触れるとより楽しめるかと思います。
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